新聞までも赤シャツか

「ああやって喧嘩をさせておいて、すぐあとから新聞屋へ手を廻してあんな記事をかかせたんだ。実に奸物《かんぶつ》だ」「新聞までも赤シャツか。そいつは驚いた。しかし新聞が赤シャツの云う事をそう容易《たやす》く聴《き》くかね」「聴かなくって。新聞屋に友達が居りゃ訳はないさ」「友達が居るのかい」「居なくても訳ないさ。嘘をついて、事実これこれだと話しゃ、すぐ書くさ」「ひどいもんだな。本当に赤シャツの策なら、僕等はこの事件で免職になるかも知れないね」「わるくすると、遣《や》られるかも知れない」「そんなら、おれは明日《あした》辞表を出してすぐ東京へ帰っちまわあ。こんな下等な所に頼《たの》んだって居るのはいやだ」「君が辞表を出したって、赤シャツは困らない」「それもそうだな。どうしたら困るだろう」「あんな奸物の遣る事は、何でも証拠《しょうこ》の挙がらないように、挙がらないようにと工夫するんだから、反駁《はんばく》するのはむずかしいね」「厄介《やっかい》だな。それじゃ濡衣《ぬれぎぬ》を着るんだね。面白《おもしろ》くもない。天道是耶非《てんどうぜかひ》かだ」「まあ、もう二三日様子を見ようじゃないか。それでいよいよとなったら、温泉《ゆ》の町で取って抑《おさ》えるより仕方がないだろう」「喧嘩事件は、喧嘩事件としてか」

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