留任の運動

 うらなりが、そんなに厭《いや》がっているなら、なぜ留任の運動をしてやらなかったと聞いてみたら、うらなりから話を聞いた時は、既《すで》にきまってしまって、校長へ二度、赤シャツへ一度行って談判してみたが、どうする事も出来なかったと話した。それについても古賀があまり好人物過ぎるから困る。赤シャツから話があった時、断然断わるか、一応考えてみますと逃《に》げればいいのに、あの弁舌に胡魔化されて、即席《そくせき》に許諾《きょだく》したものだから、あとからお母《っか》さんが泣きついても、自分が談判に行っても役に立たなかったと非常に残念がった。 今度の事件は全く赤シャツが、うらなりを遠ざけて、マドンナを手に入れる策略なんだろうとおれが云ったら、無論そうに違いない。あいつは大人《おとな》しい顔をして、悪事を働いて、人が何か云うと、ちゃんと逃道《にげみち》を拵《こしら》えて待ってるんだから、よっぽど奸物《かんぶつ》だ。あんな奴にかかっては鉄拳制裁《てっけんせいさい》でなくっちゃ利かないと、瘤《こぶ》だらけの腕《うで》をまくってみせた。おれはついでだから、君の腕は強そうだな柔術《じゅうじゅつ》でもやるかと聞いてみた。すると大将二の腕へ力瘤を入れて、ちょっと攫《つか》んでみろと云うから、指の先で揉《も》んでみたら、何の事はない湯屋にある軽石の様なものだ。 おれはあまり感心したから、君そのくらいの腕なら、赤シャツの五人や六人は一度に張り飛ばされるだろうと聞いたら、無論さと云いながら、曲げた腕を伸《の》ばしたり、縮ましたりすると、力瘤がぐるりぐるりと皮のなかで廻転《かいてん》する。すこぶる愉快《ゆかい》だ。山嵐の証明する所によると、かんじん綯《よ》りを二本より合せて、この力瘤の出る所へ巻きつけて、うんと腕を曲げると、ぷつりと切れるそうだ。かんじんよりなら、おれにも出来そうだと云ったら、出来るものか、出来るならやってみろと来た。切れないと外聞がわるいから、おれは見合せた。 君どうだ、今夜の送別会に大いに飲んだあと、赤シャツと野だを撲《なぐ》ってやらないかと面白半分に勧めてみたら、山嵐はそうだなと考えていたが、今夜はまあよそうと云った。なぜと聞くと、今夜は古賀に気の毒だから――それにどうせ撲るくらいなら、あいつらの悪るい所を見届けて現場で撲らなくっちゃ、こっちの落度になるからと、分別のありそうな事を附加《つけた》した。山嵐でもおれよりは考えがあると見える。

— posted by id at 03:11 pm  

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