千々岩は慨然として嘆息し

 手紙をとりて示しつつ「医者がどうの、やれ看護婦がどうしたの、――ばかが、妻《さい》の事ばかい」 千々岩はにやり笑いつ。「でも叔母|様《さん》、それは無理ですよ、夫婦に仲のよすぎるということはないものです。病気であって見ると、武男君もいよいよこらそうあるべきじゃありませんか」「それじゃてて、妻《さい》が病気すッから親に不孝をすッ法はなかもんじゃ」 千々岩は慨然として嘆息し「いや実に困った事ですな。せっかく武男君もいい細君ができて、叔母|様《さん》もやっと御安心なさると、すぐこんな事になって――しかし川島家の存亡は実に今ですね――ところでお浪さんの実家《さと》からは何か挨拶《あいさつ》がありましたでしょうな」「挨拶、ふん、挨拶、あの横柄《おうへい》な継母《かか》が、ふんちっとばかい土産《みやげ》を持っての、言い訳ばかいの挨拶じゃ。加藤の内《うち》から二三度、来は来たがの――」 千々岩は再び大息《たいそく》しつ。「こんな時にゃ実家《さと》からちと気をきかすものですが、病人の娘を押し付けて、よくいられるですね。しかし利己主義が本尊の世の中ですからね、叔母|様《さん》」「そうとも」「それはいいですが、心配なのは武男君の健康です。もしもの事があったらそれこそ川島家は破滅です、――そういううちにもいつ伝染しないとも限りませんよ。それだって、夫婦というと、まさか叔母|様《さん》が籬《かき》をお結いなさるわけにも行きませんし――」「そうじゃ」「でも、このままになすっちゃ川島家の大事になりますし」「そうとも」「子供の言うようにするばかりが親の職分じゃなし、時々は子を泣かすが慈悲になることもありますし、それに若い者はいったん、思い込んだようでも少したつと案外気の変わるものですからね」「そうじゃ」

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